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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)1902号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人前沢義雄の弁護人布施辰治の上告趣旨第一点について

所論は原判決の事実認定を非難するに帰する。しかし原判決の判示事実はその挙示の証拠で充分に認めることができるばかりでなく、その採証には経験則に反する点はないから論旨は採用できない。

同第二点について

所論は本件組合がしたいわゆる生産管理は会社の業務の正常な運営を阻害しないから労働関係調整法七条にいう「阻害」にあたらないと主張する。しかし右法条は争議行為の定義を掲げただけであって、争議行為又はそれに伴う諸々の行為がすべて適法又は正当であるといっているのではないこと、そして具体的の争議行為の適法性の限界については、別個の観点から判断されなければならないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決。最高裁判所判例集四巻一一号参照)。従って同条にいう「阻害」にあたると否とは正当な争議行為であるか否かの問題を生じない。されば独自の見解の下に原判決が労働関係調整法七条に違反するという論旨は理由なきものである。

同第三点同第四点について

経営権と労働権との対等を保障しているわが国現行の法律秩序からすれば、両者の間に労働協約による特別の定めがない限り、企業の経営、生産工程の指揮命令は資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属するものであるから、同盟罷業が有効でないからといって、(原判決は所論のいわゆる生産サボという事実は認めていないばかりでなく)事情の如何にかかわらず、使用者側に専属する生産手段の管理を排除して、それを組合側の実力支配の下におくことは、いわゆる生産管理等その名目の如何にかかわらず争議行為の適法性の限界を越えたものであることは前掲当裁判所判例の説示するところである。

されば原判決が認定した程度に会社側に属する生産手段の支配を排除した被告人等の判示行為は正当な争議行為ということができないことは明白であって、結局右と同趣旨に出た原判決は正当であるから論旨は採用に値しない。

同第五点について

いわゆる生産管理が労働関係調整法七条にいう「その他」の行為に含まれるとしても、そのことだけから生産管理が正当な争議行為であるといえないことは前掲当裁判所判例の示すところであるから論旨は理由がない。

同第六点について

原判決は経営と労働とを対比せしめる意味で財産権と争議権という表現を用いたに過ぎない。その趣旨において毫も異るところがないから論旨は採用に値しない。

被告人北尾林太郎、同長谷川重太郎、同中沢孝之助、同中沢勇、同松本太郎作、同石田東造の弁護人青柳盛雄、同牧野芳夫、同小沢茂の上告趣意第一点について

前掲弁護人布施辰治の上告趣意第三点について説示したとおりであるから論旨は採用できない。

同第二点について

被告人等の判示行為が組合の正当な行為でない以上は個々の行為が一般刑法上の責任を負うべきものであるから、たとい犯行当時被告人等が従業員たる地位を失っていなかったとしても、違法な行為をする目的で判示建造物に立ちいる権利はないのであるから判示行為が建造物侵入罪に問擬されるのは当然であって論旨は理由がない。

同第三点について

組合の争議行為であって会社の業務の正常な運営を阻害すると否とは違法性阻却の基準とならないことは前掲弁護人布施辰治上告趣意第二点について説示した通りである。そして本件被告人等の判示行為が組合の正当な行為でないことも論旨第一点で説示した通りである以上は、被告人等の行為が義務不履行という消極的性質を脱して、多数の威力を以て会社の事業の管理即ち支配を排除したのであるから刑法二三四条の業務妨害罪に問われるのは明かである。論旨は理由がない。

よって刑訴施行法二条、旧刑訴四四六条により、裁判官全員一致の意見で主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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